血管の病気Q&A
膠原病では、全身の血管の病気を合併することがよくあります。
また治療に使う副腎皮質ステロイドホルモンの副作用として、動脈硬化などの血管の病気を引き起こすことがあります。
私は『膠原病における血管障害性合併症と止血凝固異常に関する検討』というテーマで、膠原病と血管の病気との関連について研究してきました。
目次
- 1.動脈硬化とは...
- 2.脳血管障害の種類...
- 3.下肢静脈血栓症とは...
- 4.抗リン脂質抗体症候群とは...
- 5.抗血栓治療とは...
- 6.出血性の病気...
- 7.ステロイド薬の血管に与える影響...
1.動脈硬化とはどのような状態を言うのですか?
動脈の血管壁は、内膜・中膜・外膜の3層構造からなっています。
動脈硬化とは内膜にコレステロールがたまって内腔が狭くなり、また血管が硬く、もろくなっている状態を指します。このような状態では血液が十分に流れなくなっています。動脈硬化は主に脳、心臓などの太い動脈によくみられ、脳血管障害、虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞など)の原因となります。日本人の死因の第一位は癌ですが、2位は脳血管障害、3位は心臓病で、なかでも虚血性心疾患が増えています。
動脈硬化の3大危険因子として、高血圧、高脂血症、喫煙が知られています。最近では、食生活の欧米化や都市型ライフスタイルの普及などによって肥満、ストレス、糖尿病なども危険因子として加わってきました。これらの危険因子については、よくある質問集の中にも詳しく解説しています。
2.脳血管障害にはどのような種類があるのですか?
血管がつまる『虚血性』と血管が破れる『出血性』に大きく分けられます。
虚血性の代表が脳梗塞で、脳の動脈の一部が閉塞し、血行が途絶え、脳細胞が壊死した状態です。その原因として 動脈硬化が原因で病的血栓ができたり、心臓の病気(心房細動)などにより塞栓ができたりなどが考えられています。
一方、出血性の代表が脳出血で、脳の動脈が破れ、血液が脳の中に流れ込むために脳細胞が破壊される病態です。
高血圧や動脈硬化が危険因子として考えられ、脳出血、くも膜下出血などの種類があります。その他脳梗塞の前ぶれとも考えられている一過性脳虚血発作(TIA)と呼ばれる病気もあります。 脳血管障害が発生すると、非常に重症で意識障害を起こし命を落とすケースもありますが、幸い一命を取り留めても様々な後遺症を残し、本人、家族ともリハビリなどで苦労するケースが多いようです。
そのような状態にならないようにするため、日頃からの予防が重要です。発病前の症状としては、頭痛、めまい、耳鳴り、物忘れがひどくなったなどがありますので、このような症状を頻回に認める場合はなるべく早く主治医に相談し、脳のCTやMRIなどの検査を受けることが重要です。
3.下肢静脈血栓症とはどのような病気ですか?
脳血管障害が動脈の代表的な病気だとすれば、下肢静脈血栓症は静脈に発生する病気の代表的なものです。膝から下の下腿部に発生することが多く、静脈に血栓ができることにより激しい痛みや腫れがみられます。血管が浮き出る静脈怒張や静脈瘤を伴うこともあります。
原因としては不明のことも多いですが、膠原病に合併したり、次に解説する抗リン脂質抗体症候群により発生することも多いのです。
血栓が肺に飛んで呼吸困難を来す肺塞栓は、最近エコノミー症候群としても知られていますが、下肢静脈血栓症が引き金となって発症することも多く、上記のような症状を認める方は日頃から長時間同じ姿勢を取らないことや適切な抗血栓治療を受けることが重要です。
4.抗リン脂質抗体症候群とはどのような病気ですか?
詳しくは血液の凝固因子と呼ばれる細胞の細胞膜に存在するリン脂質(レシチン、カルジオリピンなど)に対して抗体ができ、この抗体が全身の血栓症を引き起こす原因となります。
膠原病の患者さんでは、全身性エリテマトーデス(SLE)に合併する頻度が高いのですが、この病気だけ単独にみられることもあります。静脈の血栓が主体で、下肢静脈血栓症を認めることが多く、肺の血栓症には注意が必要です。
また、この症候群の患者さんは習慣性に流産を繰り返すことが多いことでも有名で、胎盤血栓が原因と考えられています。原因不明の流産が続く場合には一度検査が必要です。検査としては、血小板が減少することや、抗カルジオリピン抗体を検出することなどで診断します。治療は抗血栓治療を行います。
5.抗血栓治療とはどのようなものですか?
脳血管障害や虚血性心疾患を起こす可能性のある患者さんには、予防目的で抗血栓治療を行っていることも多いのです。その種類としては、抗血小板薬、抗凝固薬、血栓溶解薬(これは血栓が発生してから使用)などがあります。
抗血小板薬は、血小板の凝集能を抑え、血小板による血栓の形成を抑制するいわゆる『血栓ができるのを抑える』お薬です。代表的なものには、パナルジン、アンプラーグ、プレタール、 少量アスピリン(バファリン81㎎錠)、ペルサンチンなどがあります。
抗凝固薬は、血小板血栓(一次血栓)をさらに強固にかためる役割をはたすトロンビンの作用を抑え、フィブリン血栓(二次血栓)の形成を抑えるいわゆる『血栓ができあがるのを抑える』お薬です。代表的なものには、ワーファリンがあります。ワーファリン使用中には、その作用を低下させないために納豆を食べないように指導しているのは有名なお話しです。
血栓溶解薬は、すでにできたフィブリン血栓を溶かすプラスミンの働きを高めるいわゆる『できた血栓を溶かす』お薬です。代表的なものには、ウロキナーゼがあり、脳梗塞や心筋梗塞の発病直後に使用します。
6.出血性の病気にはどのようなものがありますか?
脳血管障害の項で解説しました脳出血以外にも出血を来す病気は色々あります。特に膠原病の患者さんによくみられるのは、手足などにいわゆる出血斑が認められます。これは年齢からくる血管の壁が弱くなって発生するいわゆる老人性紫斑病の時もありますが、膠原病そのものによる血管障害により発生するもの、治療のステロイド薬の副作用による出血斑などが考えられます。
紫斑とは手足などの皮膚に薄くできる出血斑で、血小板の数が減少している時にも良くみられます。特殊な病気には、血小板減少性紫斑病と呼ばれる難病もありますが、膠原病の中でもSLEなどでは、病気の勢いが強い時などは血小板減少があり、出血斑が目立つ時もあります。軽度の出血斑ではほとんど無治療のことが多いですが、目立ってくると止血剤(アドナなど)やヒルドイド軟膏などが有効なことも多いです。
7.ステロイド薬の副作用としての血管に与える影響はあるのですか?
膠原病の治療薬として多く使用されているステロイド薬は、血管に対してどのような作用があるのか未だ不明な点が多いのです。私も大学時代に様々な基礎研究を行いましたが、膠原病そのもので起こる血管障害などの合併症に対してステロイド薬はその血管障害を抑制する良い作用があることもわかりました。(私の論文No.5)
ただステロイド薬は二次的に動脈硬化を発生させることも報告されており、血栓症を発病させる危険もあると考えます。また血管壁を弱くさせることから出血斑を発生させる可能性もあります。 しかし膠原病をはじめ色々な病気の治療には不可欠なお薬ですので、専門医の管理のもとに慎重に使うことが重要です。